土曜の朝。
クリニックへ行き、自分の決断を告げ、内側金属のセラミッククラウンをとって欲しい旨を告げた。
それで、その後はどうするの、と聞かれ、申し訳ないが、実はもうすでに別のクリニックへ行ってまだ手付かずの左半分を進めてもらっていること、また彼のところでは(壊れやすいといわれている)オールセラミックではなく内側ジルコニアのセラミッククラウンで、クレジットカードも使えることを話した。
彼女は、1本5000ルピーのクラウンに関しては現金で払うように要求していて、実際に1本125000ルピーのオールセラミックに変更するとなると、すべて現金で払えるほどのお金をインドに持ってきていなかった。
すると彼女は、現金のことはもっともだということで、彼女のクリニックでもカードで支払えるようにできるし、セラミッククラウンに関しては、彼女もジルコニアクラウンのことをいっているという。
拍子抜けした。
ここが問題なのだ。彼女は前回内側ジルコニアで、外側セラミックのクラウンとは一言も言っていなかった。割れやすいと何回も言っていたので、私はセラミックだけでできたクラウンのことだとおもい、彼女の主張はもっともだとおもっていた。
彼女の言い分は、オールセラミックとはジルコニアのことを指すという。
私が調べたかぎりでも、内側ジルコニアはセラミックだけで作ったクラウンより強度は強いが、表面のセラミックが割れる可能性はあるとのことだった。それをさして、彼女はセラミックは割れやすいと言っていたよう。
でも、それをいうなら、内側金属で外側セラミックのクラウンだって同じではないか。
そして、値段は、1本10000ルピーから12000ルピーとのこと。
その差はなにかと尋ねると、クラウンではなくインレー(詰め物)は10000ルピー、クラウン(被せ物)は12000ルピーという。
あれ、前回はクラウン12500ルピーだと言っていたと記憶しているが。私の聞き間違いか、それともとっさに他の歯医者と同じ値段にしたのか。
ともあれ、私はすでに他の歯医者にかかるということを決めたのだ。
そのことを伝え、彼女も了承し、内側金属のセラミッククラウンをとってもらった。
あっけなくとれ、さよならを告げ、診察室を後にした。
全て済んだというほっとした気持ちで、受付で支払いを待った。
そして呼ばれ、言われた金額は10800ルピー。
800ルピーは根管治療を終えた歯に蓋をしたものとおもわれる。
が、10000ルピーは、とってもらった2本のクラウンの値段ではないか。
これは払えません、ときっぱりと告げると、ではドクターと話してきてください、といわれ、こうして再び診察室へ戻った。
午前中の予約の時間。診察室に入り、やはり不満であることを伝えると、彼女はいっきにいかに金属が低アレルギーか説明した。
でも前回は銀と言っていたはずだけれど、私のおもい違いだったのか、今回は、ニッケルとクロム、タイタニウムであると言った。
なんだかわけがわからなくなってきてしまった。
本当に彼女が正しく、私はいちゃもんつけてるやっかいな人かもしれないし、そうでもないかもしれない。
でも、クロムもニッケルも確かれっきとしたアレルギーの金属だとおもい、申し訳ないがやはり金属のものは受け付けられないと、きっぱりと告げた。
すると、内側も外側も全てセラミックのものに付け替えることもできるが、その場合値段は12500ルピーという。そして、帰国までの日数ではぎりぎりらしい。
彼女にしてみれば、割れる確立の少なくないものに倍以上の値段をかけるなんて!ということなんだろう。
内側金属のクラウンをその場で取り除こうかと言われたが、少し考える時間が欲しかったし、J次郎と相談したかったので、次の予約を取って帰った。
その日の夕方、私は予約しておいた別の歯医者に行った。
そこで一部始終を話した。アレルギーのためにメタルの詰め物を取り除きたいと言ったのに、内側金属のクラウンを被せられたことも告げた。
彼は、あららら、、と言う表情で、それではジルコニアだな、といってパンフレットをくれた。それは、内側ジルコニア、外側セラミックのクラウンですよね?と確認すると、そうだということで、値段は1本12000ルピー、検討するようにいわれたが、私が1月9日に帰国の予定があるというと、早めにすすめたほうが良いということで、次の日に予約をとった。
ホテルに帰り調べて見ると、オールセラミックよりジルコニアのほうが強度が高いらしい。
そして次の日、その歯医者で手付かずの左下半分の金属の詰め物をとり、型取りをして、お金を全て前金で払って帰ってきた。
その歯科医は開業医で、設備は最新のものを揃えていた。レントゲンもデジタルで、別室に移動することなく、診察台の上で撮り、その場ですぐにコンピューターの画面に写し出されたのをみることができた。
銀の被せ物や詰め物を取り除くのに削るときの装置も、パワフル。男らしく(?)豪快に削っていき、あっというまにとれた。
最新の設備を揃えているからといって医者の腕が良いわけではないし、商業的になってくる場合もおおいにあるので、彼のほうが勝っているのかどうかは私は歯科医ではないしわからない。
最初の歯科医のほうが、作業の進め方が丁寧で頻繁に口をゆすがせてくれたりしたが、彼のときはぎりぎりで、唾液で口のなかがあふれそうになったりした。金属なので飲み込んだら絶対にいけないのであるが。
しかし、私の場合虫歯の治療ではなく、クラウンを作るのは歯科医ではなく技工士。
型取りもかみ合わせは大切だからときちんとチェックして、私は舌で押したね、といわれてやり直した。
私は決めた。
彼女には申し訳ないが、クラウンは全て彼のところでお願いしたい。
となると、彼女にそのことを告げなければならないのだった。
気が重い。
先週の土曜日の夜、滞在しているTaj West End のBlue Barにて、キングフィッシャーというビールの会社が主催したKingfisher Blue Global Grooveというパーティーがあった。
そこで軽く一杯飲みに行ってみた。
ところが、入り口では2000ルピーの飲み物のクーポンを買わなくてはいけなかった。
私たちここのホテルに滞在しているんどけれど、、、。軽く一杯飲みたいだけなんだけれど、、、。とルームキーをみせつついうと、仕方ないな、といった表情で、特別にとおしてくれた。
カウンター席に落ち着くと、キングフィッシャーから送られてきたであろうデニムのミニスカートをはいたお姉さんたちがやってきて、パーティーグッズをくれた。私たちはスカーフを選んだ。他にも羽のついたマスクや、トロントのゲイパレードで配られるようなネックレスもあった。
写真も撮られた。
J次郎は、新聞の社交欄に載るかな、などと言っていたが、私は載るわけないとおもった。
だって、丈の短いドレスを着た若いきれいなインド人の女の子たちが他にいるのに、特に着飾ってもいない地味目な私たちを載せる理由がない。
白人カップルでもないし、J次郎はインド人にしかみえないし、私もネパール系もしくは北インド人にみえるらしいし。
ともあれ、J次郎は久しぶりの、自分が主催しないパーティーにてご機嫌。J次郎の好きな音とは近いような遠いような音だが、とにかく楽しそう。僕、MCしますって名乗りでたらどうなるかな、などともいう。でもマイクないみたい。ごめんね、J次郎のMyマイクはカナダにおいてきてしまったのだよ。
そうして10時過ぎにはバーはすっかり込んでいた。
バンガローは規制が厳しいらしく、ここのバーも、11時半で閉まってしまうのだ。
そして、24日の朝、いつもどおり新聞を読んでいた。すると、The Times of Indiaの別紙のBangalore Timesの3面に、パーティーの記事と、私たちの顔写真も載っているではないか。
たぶん、律儀にもらった青いスカーフを首にまいていたからだとおもわれる。
朝にさっと化粧したままで、ずっと化粧直しもせず、髪もぼさぼさ。こんなことならもっとばっちりメイクしておくんだった。後の祭り。
そして、誰もみていないだろうとおもっていたのにもかかわらず、J次郎が職場につくと、それこそ皆に新聞みたよ、とか、へー、土曜の夜は楽しかったみたいだね、などといわれ、一緒に写っているのは誰かなどと聞かれた。
私は昨日忙しく一日中外出していたが、待ち合わせてJ次郎と一緒にホテルに帰ってからも、ロビーやらレストランやらあらゆるところで、顔見知りになった従業員に、新聞見ましたよ、とにこにこと声をかけられた。
今回わかったのは、土曜の夜何をしていたか、皆に知れ渡ったということだった。
2日前から喉が痛くてなかなか眠れない。
風邪をひいたようだ。
熱っぽいし体もだるい。幸い食欲はあるので、こんなときは食べられるものをしっかりと食べ、おとなしくベッドで過ごすのが一番よいのだが、ああ、やっぱり、とおもった。
先週末3日間、抗生物質をのんでいたのだ。
細菌感染した歯根の掃除に歯医者に通っていたのだが、ある日2回目の掃除を終えた夜、歯茎が猛烈に痛み始めた。次の日の朝予約を入れていたので、処方された痛み止めを飲んで寝た。
すると次の日の朝、歯茎がぷっくりと腫れていた。前日ほどではないが痛みもまだある。
調べてみると、細菌感染した歯根の治療中にこのようなことはよくおきるらしい。それまでぬくぬくと平穏に生活していた細菌が、必死に暴れて抵抗しているのだろうか。
治療してもらい新たに痛み止めと抗生物質3日分が処方され薬局へ行ったが、できれば抗生物質をのみたくなかったので、薬剤師にこれは強いのかどうか聞くと、これを飲まなきゃ歯は良くならないよ、といわれ、仕方なくのんだ。
抗生物質をのむと、抵抗力が弱くなり、なにかしらおきるのだ。
薬をのみおえ、週明けには痛みもおさまり、昨日再び歯医者へ行った。
前回、セラミックのクラウンをオーダーすべく、歯の型をとっていたのだが、それができあがり、いよいよ歯にかぶせた。
噛み合わせもよく、私はうきうきだったが、鏡をみせてもらったとき、歯の裏側に黒い筋があった。
嫌な予感がし、これはオールセラミックなんですよね?と聞くと、そうよ、オールセラミックよ、歯の裏の黒い筋は、メタルで、歯茎が上がれば見えなくなるから問題ない、とのこと。
が、しかし、私は呆然。
私 「オールセラミックではないんですか?」
先生「そうよ、セラミックよ、内側はメタルで、外側は全てセラミックよ」
私 「銀色のかぶせ物からセラミックに変えたかった理由は、アレルギーのためなんですけれど」
先生「このメタル部分は銀と○○(忘れたがたぶんパラジウム)でできていて、すでに入っているメタルの詰め物と比べてアレルギーの心配はいらないから大丈夫。メタルなしのセラミックのみ場合、割れやすいの。」
私 「、、、、。」
先生「次回は左半分の残りの型を取りましょう。」
なんかだ府におちないまま歯医者をでた。
すぐにホテルに帰り、調べた。
確かに、オールセラミックより、内側メタルのセラミックのほうが、強度がよく、特に今回のような奥歯には向いているらしい。
がしかし、ただ単に見た目が白いのがよいという審美で変えたいのではなく、アレルギーという切実な悩みのためにセラミックを希望したのだ。
そして、金属アレルギーのためということは、初回に見積もりを聞いた時点で彼女には伝えた。
歯科医からしてみれば、アマルガムなどの古いメタルを取り除くことでアレルギーの問題はクリアできたと思っているのだろうし、外側部分はプラスチックではなく全て(オール)本物のセラミックだし、割れやすいセラミックのみのクラウンを奥歯にいれることはできない、という彼女の歯医者としての信念もあったのだろうとおもわれる。
さらに、金属アレルギーの観点からいうと、内側部分に粗悪な金属を使ってしまう歯科医もあるが、銀(とたぶんパラジウム)はましといえる。しかし、チタンや金(ゴールド)だったらまだ低アレルギーといえようが、銀は決してそうではない。
J次郎が帰ってきて、事の次第を話すと、私と意見が一致した。
金属を取り除きたかったのに、一本1万円もかけて、違う金属をいれることに何の意味があるのだろう。
強度の問題でいうならば、かぶせてあった銀色の金属で十分なのだ。
セラミックのみの場合壊れやすいといっても、そのときはそのときなのだ。
ちなみに、今回彼女が私の歯にかぶせたものは、日本でメタルボンドとよばれ、同じものを日本で作ると、一本8万円から十数万するらしい。
もし白いのに変えたいだけだったら、彼女は考えてきちんとしてくれているのだ。
お金もこのクラウンに関しては全てまとめて後払いで、昨日いれた2本のクラウンもまだ払っていない。
明日、彼女と再度話すことにした。
さて、どうなることやら。
マダム、ここはBrigade Roadという通りで、リッチな人々が買い物をするところです。
2008年の夏、初めて訪れたインドのバンガロールで、Brigade Roadと呼ばれる繁華街を通ったときに運転手が説明してくれた。
前日、私とJ次郎はその通りで夏のセールのショッピングを楽しんでいたばかりだった。
また、その運転手は、一度でいいからいつか自分も飛行機に乗って外国へ行ってみたい。と空を見上げながら言った。
いずれも、答える言葉がでなかった。
そしてそれらの言葉が今でも忘れられない。
Brigade Roadは、トロントの普通のショッピングモールに連ねるような店が並んでいる。何もヴィトンやシャネルといったレベルの店ではない。
そもそもは、滞在していたThe Parkというホテルのプリウスという名前の運転手が自分の私用車の一日貸切を申し出てきて、何度も営業してきたところから始まる。
値段は2000ルピーを提示していたが、なかなか約束を取り付けない私たちに、最終的には1500ルピーでよいと言ってきた。
それでもやや高い気がしたが、いちいち値段交渉してオートリクシャを探すよりいいとおもった。それに、初めてのインドで、みずしらずのひとではなくホテルの従業員だったから少しは安心だし、オートリクシャで行くには遠すぎる動物園にも行きたかったし、バンガロール市内の観光もまとめてしたかったので、カナダからJ次郎の同僚が出張できた時を待ち、お願いすることにした。
当日の朝、プリウスは約束した時間にはなかなかこなかった。30分遅れてあらわれたのは、プリウスではなく、その友達だった。プリウスはなんでも急な仕事が入ったとのことだった。
そのプリウスの友達の運転手は英語も話せ、悪いひとではなさそうだった。
一日観光した後、最後に用があり、ショッピングモールへ寄ってからホテルへ帰ることにした。
そのとき、その運転手は店に行かないかと聞いてきた。J次郎はホテルへ帰ってからも仕事があったし、すでに夕方のラッシュの時間にさしかかり、道は込み始めていた。そのときから1時間以内はホテルへ着きたかった。
それで断った。それでも、フェスティバルの時期で、シャツがもらえるから、ぜひ店に行ってほしいとお願いしたきたが、申し訳ないがホテルへ帰って仕事しなけらばならないので、と丁寧に断った。
それでも、車は店先に停まった。
最後にいたところから直接ショッピングモールへ向かっていれば、5分ほどの用事だったので今頃済ませられていただろうに。
私は再度J次郎が仕事しなければならないので時間がないことを告げ、断った。が、彼は、フェスティバルに備えてシャツが必要だからと、5分だけと譲らない。
いい加減私も腹が立ってきてしまった。だって、この車を貸しきるのに対してはきちんとそれなりの値段しているのだ。それでこんな結果になるのだったら、タクシーを手配したほうがよかったのではないか。
車からは降りず、やっと車はショッピングモールへと向かった。車中はなんともいやな雰囲気だった。
後で、運転手は私たちが店に寄らなかったとプリウスに文句を言っていたらしい。
なんだかなあ。
いったいプリウスはいくら彼に支払っていたのだろう。それがすごく気になる。
今回、このプリウスという男が曲者のような気がおおいにする。はじめから彼は自分のスケジュールなど気にせず、誰かを手配する気で、いわば斡旋のようなことをして自分は働かずにお金を稼いでいたのではないかとも考えてしまう。
運転してくれたプリウスの友達の運転手には同情してしまう気もするが、でももし私たちが店に寄っていたら、もう一軒寄らされていたかもしれない。
そして、J次郎がバンガロールを去るときに空港に向かうのに手配したホテルの車の運転手がプリウスで、そのとき彼は、先日の話を持ち出し、プリウスの例の友達にシャツをあげたいから、店に寄ってくれとJ次郎にお願いしたそう。
J次郎は快く応じ、店へ寄ったという。
がしかし、私は本当にプリウスがその友達にシャツをあげたかどうかすごく疑問だ。だって、その話を持ち出せばもっともらしい口実だから。
先週は通っている歯医者のすぐ近くで開催されていた手工芸品の市場へ行った。
会場はアートスクールで、敷地内にさまざまな手工芸品の店が並ぶ青空市場。
開放的で買わないでもみているだけでも楽しい。
通りに並ぶ店に入ると、値段を聞くだけで必死かつ強引なセールスが始まるが、このような露店が並ぶマーケットでは比較的セールスの押しも強くなく、ぶらぶらとじっくりみられるのがいいのだ。
そのなかの露店で、2週間前Infantry RoadにあるSafina Plaza で開かれていたKarnataka state Arts and Crafts Emporium(カルナタカ州政府経営の工芸品の店)のExhibitionで買ったものを発見。
来年、J次郎のスリランカ出身の友達の結婚式に招待されているので、そのときに持参するお金をいれるのにぴったりとおもって買ったのだった。
彼はどうやらガネーシャ好きらしいし。
↑ 裏を返すと封筒だということがわかる。両面テープがついているので贈られたひとは壁に貼っておくこともできる。
よせばいいのに値段を聞く。
20ルピーとのことだったが、私は35ルピー払っていた。まあ州政府経営の店だったから、値段は高すぎず安すぎずなのだ。
州政府経営の店は値切ることはできないが、店にもよるが値段を聞いてもさほど強引なセールスはしてこないことが多いので、自分の好みのものをじっくりと検討することができる。
デンマークの子供たちはみんな知ってる幸せを運ぶ妖精ピクシー。
21人揃って日本へやってきました。
デンマークの幸せを運ぶ妖精ピクシー
あっけにとられたのは、ちょうど一年前に滞在したハイデラバードのホテル、Taj Deccanでの出来事。
Taj Deccanは、高級ホテルだが、最高級クラスというわけではなくビジネスホテルである。
そうすると、サービスの質に従業員の個人の性格の差がでてくる。
あるひとは、最高級クラスのサービスをしてくれるが、あるひとは、?な態度だったり。
ある日私は体調不良が回復したものの口の中にできた口内炎がひどく話すのも痛かった。
まだ元気に外を歩き回れるほどではなかったがかといってホテルの部屋にこもっているのも退屈だった。
そんな私にJ次郎が、出勤する際のホテルの車に一緒に乗って、J次郎が降りた後そのままホテルに帰ってくるのを勧めてくれた。ちょっとした気分転換である。
そうして一緒に乗り込んだが、やはり店にいかないかと聞いてきた。そのときはJ次郎も一緒だったので、痛くて話したくない私にかわり、J次郎が車を降りる時に運転手に事情を説明し、断ってくれた。
話はついた、とおもっていたが、帰り道、しきりに店に寄らないかと聞いてくる。
その都度断っていたのにもかかわらず、車は店先に停まった。ホテルへの道はいくつかルートがあるが、その店は確かに帰り道にあった。
それで、私は暇だったし、それだけいうなら、じゃあ五分だけ、と車から降り店へ入った。
のが間違い。
その店では、どこから来たのか聞かれ、カナダに住んでいると答えるも、本当はどこの国の出身なのかと聞かれ、日本人とわかった途端、それまで対応していたひとから店主らしき男性に即座にかわり、それまで次々と頼みもしないのに勝手に広げられていたショールも日本人は品質が良いものが好きですよね、などといい、すぐに一番値段の高いものを広げ始めた。
店内には客は私ひとり、店主は私を離さなかった。なんでもその店主は日本に行ったことがあるという。
ここにくるのは予定外で(本当)、カードも持っていないし(嘘)、旦那がいないと買えないから(嘘)、などと言っても、お金をはらわずに好きなのをいくつか持っていって、旦那にみせてから選べばよい、お金は後で払えばいいし、などとなかなか手ごわい。
そうしてさらにカーペットやジュエリーなども見せられ、私は完全につかまってしまった。
最後、やっとのおもいで、旦那を連れてまたきます、といっても、日本人は約束守りますよね、待っていますなどと話が始まりとにかく店をでるのに時間がかかったのだった。かるく30分以上はいたとおもう。
運転手はご機嫌で、ほら、マダム、飛行機雲がみえますよ、などと朗らかだった。
そして後日、月が変わったときにきたホテルからの支払い明細書をみて驚いた。
なんと、その時の車に超過時間がとられていたのだ。
ドライバーは、車を降りるとき超過時間については何も言っていなかったし、彼のために店に寄ってあげたのに、超過時間を取られることなんて考えてもいなかった。
それはないんじゃないの~?
まあ、支払いはJ次郎の会社がするので私たちの懐が痛むわけではないし、渋滞などと理由はつけられるが、会社にみせる請求書に追加料金があるのはちとまずい。帰りなら、残業で、会社をでるのが遅れて車を待たせることならよくあるのだが。
さらに後日、彼の車にのりあわせたとき、もうすでに一度店に寄ってしまっていわば私には用はないからなのかどうかはわからないが、あれだけ愛想がよかったのが終始無言で別人かとおもったほどだった。単に彼の体調が悪かっただけなのかもしれないが。
運転手との逸話はまだまだ尽きない。
↑ 働く馬。たまに後ろの荷台にひとが座って乗っているのをみかける。ちょっと乗ってみたい気もする。
そして昨日のこと、また例の運転手の車に乗ったJ次郎。
J次郎はカナダにいる友達に頼まれたある小物を探していた。
が、わたしも協力して探していたがなかなかみつけられないでいた。
そこで、J次郎は例の運転手に、店に寄るように頼んだ。
ドライバーは、当然うきうき、のはずだったが、ホテルにばれたらクビになるからと、一転して困惑し、相当びくびくしていた。
これにはわたしたちにはおもいあたるふしがあった。
先日、ホテルに支払いの際に請求書にちょっとしたミスがあった。それで次の日訂正してもらった。
それだけのことなのだが、なんと支配人が謝罪したいとわざわざわたしたちにアポをとってきたのだ。
J次郎もわたしもなんだか恐縮してしまい、大した間違いでもないのだから別にいいのに、かえってめんどくさかったが、まあ長期滞在しているので挨拶もかねているのだろう、朝食の後に席がもうけられお茶を飲みながら3人で話した。
そう、その際にJ次郎が運転手に店に連れていかれたことに触れたのだ。
まだ若い支配人の顔がそのとき一瞬こわばったようにみえた。しきりにドライバーの名前、もしくはその日がいつだったかを聞いてくるが、なにもわたしたちはその運転手をクビにしたいわけでもないので、お茶を濁した。
支配人には今後そのようなことがあったら、必ず名前を教えてほしいと念をおされた。
運転手にしてみたら、客を店に連れていくことにより特典があるのだ。
それはわかるので、協力してあげたい気持ちもあるが、彼らのいう5分だけ、というのは本当に5分では済まない。
まず、ここからすぐ近く、目的地のそばあるいは通り道にある店というが、実際たまたまそういう場合ももちろんあるが、たいていはその店によるために回り道するはめになる。そのために余計な時間がかかる。
そしてさらに、店に足を踏み入れたとたん、蜘蛛の巣にかかった虫のごとく、店員につかまって店からなかなかでられない。特に私が日本人とわかったらなおさらである。
こうして気づくとひどいときは1時間くらいの予定外の時間が消費されていくのだ。
忘れられないのは、ちょうど一年前に滞在したハイデラバードのホテル、Taj Deccanでの出来事。
バンガロールにて今滞在しているThe Taj West Endはインドでは最高級ランクのホテルである。
従業員は皆礼儀正しくサービスは完璧、とおもっていた。
それはある日、J次郎が会社に出勤すべくホテルの車に乗ったときのこと。
J次郎は毎日会社までの往復にホテルの車を利用している。ちなみに滞在初日に、2ヶ月という長期滞在ということを考慮して、ホテル側はこの送迎費用を約半額にサービスしてくれた。
その日のドライバーは、文字通り再三、三度に渡ってJ次郎にショールなどを売る土産物店に行かないかと誘ってきた。J次郎はその都度申し出を断った。
なのに、車は店の前で停まった。
まだ時間があるから大丈夫、5分だけなどという。
こういう強引な手口はよくあることである。断っても断っても着いた先は目的地ではなくて店先。
この運転手は前日の夜、J次郎が会社からホテルに帰るときと同じ運転手だった。
ホテルの運転手は他にも何人もいるが、皆英語が話せ礼儀正しい。
そのドライバーは自分の給料が一月5000ルピーで、それだけだときついが客からのチップがもらえ、それが大いに助かっているという話をした。
J次郎はなんだか他の人たちは皆チップをあげているんだよ、と言われているような気がした。
彼のいうことが本当かどうかはわからないが、5000ルピーって、日本円に換算すると一万円足らずである。まあ家賃も相当安いらしいが。
そしてさらにJ次郎にカナダでの給料を聞いてきて、しかし家賃などの生活費にも費用がこれだけかかるという話に、それでいったいどうやって生活できるのかとそれは驚いたそう。
さてさすがのJ次郎も相当頭にきて、店のなかに入ることはもちろん車からは降りずに会社へ向かうよう怒り口調で告げた。
ドライバーが何時から仕事なのかなどと時間を聞いてくるとき、それは一見遅れないかと心配してくれるかのようにおもう。
が、そういう場合だけでもないようだ。
おもえば一年半前、やはりバンガロールで滞在したThe Parkというホテルで、帰国すべく空港に向かうのにホテルの車を利用した。ホテルの車はタクシーなどと比べると断然価格が高く、4000円ぐらいする。J次郎とは別の日のフライトで、初めてのインドで、夜中にわたしひとりだったせもいもあり、安心、とおもったのだ。わたしひとりなのでJ次郎の会社には請求できずもちろん自腹である。
そのドライバーにもフライトが何時なのかを聞かれ、それまでには時間があるから大丈夫と、断っても断っても土産物店に行かないかとしつこく聞かれて辟易した。
そのときはこんなんだったらタクシーを利用すればよかったと、おもった。それで、その半年後に滞在したハイデラバードでは民間の空港送迎の車を利用したが店に誘われることもなく、空港にも早く着き料金も断然安く済んで快適だったのでそのとき運転してくれたドライバーにはチップもはずんだ。
そして、ある日電車にのるべく駅へ向かうときに乗ったオートリクシャのドライバーにも、どこへいくのか聞かれ、ああ、それだったら何時何分の電車だね、まだ時間があるからと店に連れていかれそうになった。何度も断り、駅へ着いたときには発車時刻数分前。息をきらしながら走ってプラットフォームへ向かった。
もしそのオートリクシャのドライバーのいうままに店に行っていたら完全に電車に乗り遅れていただろう。
そして、先ほどのJ次郎のドライバーの話には後日談がある。
インドで歯医者に通っている理由、それは、日本では自費診療になるため高額な、口のなかにあるすべての銀色の金属のかぶせ物や詰め物を白いものに変えるためだった。
それでアトピーが治ったという話を聞いたことがあり、少しでも望みがあることには試してみたかった。
今通っている歯科医では、1本あたり詰め物の場合2500ルピー、キャップというかぶせ物の場合5000ルピー。この値段は、歯科医によって違うとおもわれるが、今のところはホテルから歩いて10分足らずなので、毎日通うのには都合がいい。
私は虫歯の治療跡が多いので総額で10万円くらいかかると思われるが、それでもしアトピーが治れば安いものだ。
先生も、女の先生で、医者にありがちな威圧感がなく話し方も穏やかで、インドはどう?好き?などときさくに話しかけてくれる。
ハイデラバードで歯のクリーニングをしたとき、私もJ次郎もふたりとも女の先生にしてもらった。またJ次郎のインドでの同僚のお母様も歯科医だということも聞き、インドでは歯科医は女のひとが多いみたいですね、と聞いてみた。朝出勤して夕方で終わり、宿直や緊急の呼び出しもないため家のことにも時間が割けるということで、インドでは歯科医の半数以上が女医だということだった。
最初はすでに自然に詰め物が取れてしまった歯をしてもらったのだが、その後は、金属の詰め物ををとるのが痛いので、自然に取れたときに白いのに変えていくほうが良いとすすめられたが、事情を話し進めてもらうことになった。
もしアトピーが治らなくても、銀のかぶせ物の下に隠れている虫歯が発見されれば治療できるし、とも考えていたら、さっそく虫歯が発見された。
いわれたとおり、結構痛かったが、アトピーが治るかもしれない可能性のことを考えると、我慢我慢。