ある65歳のカナダ人女性と話していたときのこと。ウエディングドレスを買う、買わないの話になり、彼女はウエディングドレスなんて、買っても無駄!といいきった。
彼女自身と、娘さんたちの結婚式のときの経験からくるその言葉は、迫力があり、説得力があった。カナダでは、ウエディングドレスはレンタルより購入するのが一般的である。娘さん2人のそれぞれのドレスは、結婚式のときに着て、クリーニングにだして(クリーニング代も高い)、そのまま実家である彼女の家にしまってあるという。
しかし、私は、するならリゾートでのウエディングがいいので、となると、レンタルではなく購入となる。
実は結婚式に関しては思い入れもなく、別にしなくてもいいとおもっていたけれど、日本の友人に、しなくて後悔したひとはいるけれど、して後悔したひとはいない、むしろするとしてみたらしてよかったというひとばかりだよ、いうことをいわれ、やっぱりしておくか、という気持ちになっていた。
それで今回、漠然と、できればインドでオーダーメードでウエディングドレスを作ることを考えていた。
そんなある日、ぶらぶらとバンガロールの地元向け繁華街Commercialストリートに向かって歩いていると、Dispensary Roadでショーウインドーにドレスのかかったテイラーをみつけた。
飾ってあるドレスのデザインは古臭くいまいちだったが、店の中に入って話してみることにした。
ドレスを作りたいことを告げ、店内の雑誌のようなパターンブックを見せてもらう。
そのなかからごくシンプルなものを選び、これがいいと伝えると、適した布の種類と何メートル必要かを教えてくれる。
安いので、ロングドレスを2着つくるとこにした。1着は白でウエディングの時に着るつもり。
ウエディングドレスに関しては特にこれといったこだわりもないし、海辺での式になるであろうため、ゴージャスなものではなく、シンプルなドレスでよかったのもあった。
そして布を売っている店に行き、布を購入してくるのだ。
↑ 布を購入した店。色でしばらく悩んだ。布屋で購入した布代は2着分で810ルピー(約19カナダドル)。
布を買って再びテイラーに戻り布を見せると、一目みるなりこれはシルクではないと言われ、大ショック。布を売っている店も教えてもらうんだった。が、後の祭り。
いくら払ったのかを聞かれ、指定されたクレープシルクだったら1メートル500ルピーはするとのこと。私が買ったのは1メートル55ルピー。確かにずいぶん安いと思ったのだが、もうひとつのロウシルクのほうは1メートル125ルピーだったので、そんなものかとおもってしまったのだ。それでも、騙されてシルクの値段を払ったわけではないので、微妙なところ。
返品してこようかと意気消沈する私に、返品は受け付けないだろうし、この布でもできるから心配いらないといわれ、その布でつくることにした。
このテイラーに賭けてみようとおもったのは、常にひっきりなしに客がいたし、非常に無愛想だが、接客そっちのけで目の前の手作業を優先させる姿が逆に信頼できそうな気がしたから。滞在期間が限られているので、期日を守ってくれるかどうかは大事なのだ。さらにできあがってみて、不具合がある場合直してもらう時間も必要だ。
それでも、すごくはやってるのね、と話しかけると、にやっと笑顔をみせた。
できあがりはクリスマス後の28日。23日ころに一度電話をかけて進行具合を確かめることになった。
裏地は用意してくれて、すべて込みの仕立て代2着で3450ルピー。1着あたり1725ルピー(約41カナダドル)。この値段で自分のサイズにあったロングドレスができるのだから安い。
現金で1000ルピーを前金で支払い、後は待つのみ。しかし、正直楽しみより不安も大きいのだった。