本社からの返信はクレーム対応としてパーフェクトな回答だった。
私の主張を受け入れてくれ、今回のような不快な体験が起こってしまったことを詫びてくれた。この会社では従業員に対して人権問題に対応する研修を受けさせているが、外部から雇ったトレーナーにはそのような研修を受けてもらっていない実態を踏まえ、 全トレーナーに会話に気をつけるよう徹底して指導すること、そして、問題提起をしてくれてどうもありがとう、会社の発展に貢献してくれるので感謝します、という文も付け加えられていた。
さらに、地区マネージャーとおもわれる方も返信してくれた。その方も詫びの言葉とともに、指導を徹底します、今後も遠慮なく連絡してください、という真摯な回答をくれた。
その2日後にジムを再び訪れた。
相変わらずフロアは閑散としていた。例のことが起こったウエイトトレーニングのマシーンエリアには、例のトレーナーが同じ客を指導していた。そばを通り過ぎるとき、彼は私に気が付き、目があったので、私は自分から挨拶した。はっきりと、明るく感じの良い調子で、ハイ、ハワーユー、と声をかけると、彼はにこやかに気持ちのよい挨拶を返してくれた。
前回はしていなかったが、その日はウエイトトレーニングの回数をカウントしていた。他のトレーナーのような、客に受け答える感じでの会話はしていたが、自分から社会情勢や政治の話をすることはしなくなっていた。
そして、他のスタッフも違っているのに気が付いた。受付のスタッフはより感じよくなっていて、挨拶が徹底するようになっていた。ひとりものすごく話好きなスタッフがいて、いつも他のスタッフに夢中でしゃべり続けているだが、その日からはいったん話すのをやめて、どの客に対してもしっかり挨拶するようになった。
私は、これからもこのジムの通うことに決めた。
コロナ禍でジムに通えなかった間、ダラーストアで揃えたグッズでも自宅でのエクササイズが十分可能だということがわかり、ジム通いを継続するかどうか迷っていた。今回の結果次第では心置きなくキャンセルするいいきっかけになるかも、とおもっていたのが正直なところではあった。
それが、結果的にはここのジムに通う頻度が増えた。行動してよかったと思えた。
ちなみに、今回この会社に宛てたメールに引用したのは、トロント市のサイトの、Anti-East Asian Racismの動画のなかの言葉だ。https://www.toronto.ca/community-people/get-involved/community/toronto-for-all/anti-east-asian-racism/
“silence and inaction help perpetrate racism by allowing the discriminatory action to continue”
直訳すると、沈黙及び行動しないことは、差別的行動の継続を可能にすることになり、差別を助長する、という意味になる。
カナダは、我慢を美徳としない。不当なことには声をあげて、正当な主張を訴えることができるひとの方が称えられる傾向がある。日本はどうだろうか。