食事をしながらフラメンコを楽しんでいたが、J次郎がふと気づいたことがあった。
ずっと私たちのテーブルを担当してくれていたウエイトレスに見覚えがあったのだった。
どうやら一緒に暮らし始める前にJ次郎がルームシェアしていたR君の元彼女かもしれなかった。
R君は、背の高いトムクルーズといったふうで、一見女子受けする容姿をしているので、彼女をつくるのにはさほどむずかしくないのだが、その関係はすぐに終わる。
J次郎のところに頻繁にお邪魔していた私には、理由がわかる気がする。
普通はトムクルーズに似ているといわれたら、悪い気はしないものだが、彼の場合は、それをあまりよくおもっていないらしく、トムクルーズに似ているというのは禁句だった。
怖くはないし悪いひとではないのだが、私にとっては地雷を踏まないよう気をつかわなくてはならないちょっと難しい性格だった。
さて、J次郎は彼らの部屋に遊びにきた彼女と2回ほどしか会っていなかった。それ以上は来ることはなかったのだった。私もそのうち1回だけ会ったことがあって確かに髪の色や肌の色、背丈も似た感じだけれど。
私はJ次郎の勘違いだとおもったが、運ばれてきたレシートに記載されているウエイトレスの名前は、その彼女と同じ名前だった。
そして、彼女はスペイン系らしくスペイン語を話せると言っていたこと、さらに、バイセクシャルだと聞いていたことから、ゲイタウンとして有名なChurchストリートのスペイン料理をだす店で働いている理由もつじつまがあう。
こうなると気になってしまった私たちは、家に帰って以前の写真のなかに彼女の姿をみつけた。写真のなかでは化粧が濃くて、いまいちわからないが、その日のウエイトレスと同じブーツをはいていた。
私たちはほぼR君の元彼女だと確信した。
トロントは狭いのだ。
トロントで育ったJ次郎は、休みの日にダウンタウンを歩いていたりすると、たいてい知り合いにあう。だが、最近は、あまり古い知り合いだとJ次郎だと気づかれないことが多い。
30キロ近く体重を落としたのだから、別人のようなのだった。