バンガロールにて今滞在しているThe Taj West Endはインドでは最高級ランクのホテルである。
従業員は皆礼儀正しくサービスは完璧、とおもっていた。
それはある日、J次郎が会社に出勤すべくホテルの車に乗ったときのこと。
J次郎は毎日会社までの往復にホテルの車を利用している。ちなみに滞在初日に、2ヶ月という長期滞在ということを考慮して、ホテル側はこの送迎費用を約半額にサービスしてくれた。
その日のドライバーは、文字通り再三、三度に渡ってJ次郎にショールなどを売る土産物店に行かないかと誘ってきた。J次郎はその都度申し出を断った。
なのに、車は店の前で停まった。
まだ時間があるから大丈夫、5分だけなどという。
こういう強引な手口はよくあることである。断っても断っても着いた先は目的地ではなくて店先。
この運転手は前日の夜、J次郎が会社からホテルに帰るときと同じ運転手だった。
ホテルの運転手は他にも何人もいるが、皆英語が話せ礼儀正しい。
そのドライバーは自分の給料が一月5000ルピーで、それだけだときついが客からのチップがもらえ、それが大いに助かっているという話をした。
J次郎はなんだか他の人たちは皆チップをあげているんだよ、と言われているような気がした。
彼のいうことが本当かどうかはわからないが、5000ルピーって、日本円に換算すると一万円足らずである。まあ家賃も相当安いらしいが。
そしてさらにJ次郎にカナダでの給料を聞いてきて、しかし家賃などの生活費にも費用がこれだけかかるという話に、それでいったいどうやって生活できるのかとそれは驚いたそう。
さてさすがのJ次郎も相当頭にきて、店のなかに入ることはもちろん車からは降りずに会社へ向かうよう怒り口調で告げた。
ドライバーが何時から仕事なのかなどと時間を聞いてくるとき、それは一見遅れないかと心配してくれるかのようにおもう。
が、そういう場合だけでもないようだ。
おもえば一年半前、やはりバンガロールで滞在したThe Parkというホテルで、帰国すべく空港に向かうのにホテルの車を利用した。ホテルの車はタクシーなどと比べると断然価格が高く、4000円ぐらいする。J次郎とは別の日のフライトで、初めてのインドで、夜中にわたしひとりだったせもいもあり、安心、とおもったのだ。わたしひとりなのでJ次郎の会社には請求できずもちろん自腹である。
そのドライバーにもフライトが何時なのかを聞かれ、それまでには時間があるから大丈夫と、断っても断っても土産物店に行かないかとしつこく聞かれて辟易した。
そのときはこんなんだったらタクシーを利用すればよかったと、おもった。それで、その半年後に滞在したハイデラバードでは民間の空港送迎の車を利用したが店に誘われることもなく、空港にも早く着き料金も断然安く済んで快適だったのでそのとき運転してくれたドライバーにはチップもはずんだ。
そして、ある日電車にのるべく駅へ向かうときに乗ったオートリクシャのドライバーにも、どこへいくのか聞かれ、ああ、それだったら何時何分の電車だね、まだ時間があるからと店に連れていかれそうになった。何度も断り、駅へ着いたときには発車時刻数分前。息をきらしながら走ってプラットフォームへ向かった。
もしそのオートリクシャのドライバーのいうままに店に行っていたら完全に電車に乗り遅れていただろう。
そして、先ほどのJ次郎のドライバーの話には後日談がある。